ピロリ菌の歴史(後編)

ピロリ菌の基礎知識

1982年  らせん菌の培養に成功

オーストラリアのバリー・マーシャルとロビン・ウォレンのところに、腹痛を訴える76歳のロシア人患者がやってきました。

胃生検組織で慢性活動性の胃炎像があることがわかると、マーシャルは患者の承諾を得てからテトラサイクリン2gを14日間投与します。

患者の症状は改善し、再検した胃生検組織からも胃炎像が消失していることに判明しました。これを機会にマーシャルもらせん菌と胃炎の関連性を確信したのです。

その後も2人は胃生検組織の培養を研究し続け、延べ100を超える培養例を実施しました。当時は低濃度の酸素と二酸化炭素を効率良く利用する「微好気培養技術」が基盤となっています。

栄養と環境に対する条件が厳しい細菌に対しては特殊な培地と培養法が必要なために、マーシャルらはこの微好気培養技術を応用して、慢性活動性胃炎の患者の胃内と幽門付近かららせん菌を分離することに成功しました。

しかし、らせん菌の培養には失敗し続けたのです。

ところが偶然か必然か、人の胃かららせん状の菌を培養することに成功しました。

それはマーシャルの実験助手が休暇をとったため、マーシャルは通常は数日で終わらせる培養を5日間そのまま放ったらかしにしたところ、培地上に細菌のコロニーができていることに気づき、これがらせん菌の培養の成功につながったのです。

後にこのらせん菌は増殖スピードが遅く、培養には長時間を必要とする細菌であったことが判明されました。

1994年  ピロリ菌を自分で飲んで慢性胃炎

発見された当時、慢性胃炎や胃潰瘍はもっぱらストレスだけが原因であるという説が主流でありましたが、マーシャルらは「ヘリコバクター・ピロリ菌」と名付け、これらの疾患の病原体であるという仮説を提唱しました。

これらの疾患の慢性化と胃癌の発生が関連することが、当時すでに知られていたため、この仮説はピロリ菌が癌の発生に関与する可能性を示唆するものとしても注目されましたが、当初は疑いの目を持って迎えられたとのことです。

そこでマーシャルは培養したピロリ菌を自ら飲むという自飲実験を行いました。その結果、マーシャルは急性胃炎を発症し、仮説の1つが証明されたのです。

しかし、マーシャルの胃炎は治療を行うことなく自然に治癒したため、急性胃炎以外の胃疾患との関連については証明されることはできませんでしたが、慢性の活動性胃炎が生じました。

活動性胃炎は胃粘膜が脆くなり、この状態は胃酸やストレスなど種々の外因性の影響を受けて、胃粘膜の障害が強くなっていく傾向があります。

それでもピロリ菌の除菌に成功すると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発がほぼ抑制されることも明らかになりました。

一方、マーシャルとは別にニュージーランドの医学研究者アーサー・モリスも、同様の自飲実験を行っています。マーシャルと同様に急性胃炎を発症しただけでなく、モリスの場合は慢性胃炎への進行も認められました。

この結果、ピロリ菌が急性胃炎と慢性胃炎の原因になることが証明され、これらの疾患の慢性患者の多くからピロリ菌が分離されること、除菌治療が再発防止に有効であることも明らかになりました。

動物実験では胃癌の発生にも成功し、1994年にはIARC(国際がん研究機関)が発行しているIARC発癌性リスク一覧に発癌物質として記載されました。

2005年  2人がノーベル賞を受賞

医学的な重要性から、ヘリコバクター・ピロリ菌の研究は勢力的に進められ、1997年にはゲノム解読が完了しました。

この結果から胃内定着の機構や発癌のメカニズムについての研究がさらに進められています。

2000年11月より日本でもピロリ菌の診断と治療が胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者に健康保険が適用されるようになり、難治性潰瘍、再発性潰瘍で悩んでいた患者にとって大きな福音となりました。

胃過形成性ポリープの約75~80%がピロリ菌の除菌により、消失または縮小が確認できています。

2005年にはピロリ菌の発見と培養の功績から、バリー・マーシャルとロビン・ウォレンにノーベル医学生理学賞が授与されました。

始めは胃の中に細菌がいることを信じていない人が大多数でしたが、長い年月をかけて常識を覆すような新しい成果を挙げることができました。

現在はピロリ菌の除菌が推奨されていますし、ピロリ菌に関するニュースは次々と発表されています。2005年以降の重要なものについては別の記事で紹介していきます。

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ピロリ菌のデータ

ピロリ菌のデータ   学名  
Helicobacter Pylori
  身長  
約3-5μm
  特徴  
胃のみで生きられる

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